1.生い立ち、家柄
ヨハネの父ザカリヤがアビヤ組の祭司であり、母エリサベツはアロンの家系ということから、祭司の血筋をひいている人物です。ザカリヤとエリサベツは以前に学んだように、正しい人で、祈られて奇蹟的にヨハネは生まれた子でした。そして、生まれた時から聖霊に満たされて(ルカ1:15)、聖別されていたナジル人でした(民数6章)。また、エリサベツとマリヤは親戚であることから、ヨハネはイエス様と幼少期から顔見知りであったはずです(ルカ1:36)。そして、成人してからは荒野で住んでいました(ルカ1:80)。
2.ヨハネの性格
旧約の最後の言葉に「エリヤを遣わす」と預言されています(マラキ4:6)。エリヤはアハブ王の下、バアル礼拝を続けるイスラエルの民に対して、対決する預言者でした。それゆえ強い正確の持ち主で、孤独に耐え、権力者にも立ち向かう強い信仰者でした。ヨハネもエリヤ的性格をもった最後の預言者で、人々の心と対決しました。そのヨハネはどんな人だったでしょうか。
① 変わり者
彼のことを聖書はこのように現わしています。
「このヨハネは、らくだの毛の着物を着、腰には皮の帯を締め、その食べ物はいなごと野蜜であった。」マタイ3:4.
このライフスタイルから考えても、普通の感覚をもった人ではないことがわかります。神の人ですが、友人としてはちょっとつきあえないような人物の感じがします。
② 禁欲的な人
荒野という世間から隔離された場所で、彼は禁欲的な生活を送っています。
「というわけは、バプテスマのヨハネが来て、パンも食べず、ぶどう酒も飲まずにいると、『あれは悪霊につかれている。』とあなたがたは言うし、」ルカ7:33.
また、ヨハネは弟子たちにも、祈りと断食をさせていて、人々には禁欲的な集団であったと見られていました。(ルカ5:33)
※当時はパリサイ人、サドカイ人とともにユダヤ三大宗派と呼ばれる「エッセネ派」という集団が存在していました。彼らは現代の修道院のような荒野で共同生活をして、禁欲的でした。ヨハネはこのグループに属していた可能性が高いと言われています。
③ 正義感のある人
ヨハネの荒野での説教は、人に遠慮することを知らない、厳しい内容でした。当時、会堂を牛耳って、社会的権威を持っていて、誰もが恐れて、本音を言えなかったパリサイ人に「まむしのすえたち。だれが必ず来る御怒りをのがれるように教えたのか。」ルカ3:7.と堂々と言ってのけました。パリサイ人は表面的には立派な人たちでした。しかし、ヨハネには彼らの心が妬みと虚栄心でいっぱいなのを見抜いていました。彼らのように血筋で満足する信仰によっては決して救われないことを語り、イエス様の与える救いへの自覚を人々に与えていたのです。
その時代のガリラヤ地方の最高権力者ヘロデ王の罪に対してもはっきりと責めています。
「さて国主ヘロデは、その兄弟の妻ヘロデヤのことについて、また、自分の行なった悪事のすべてを、ヨハネに責められたので、」ルカ3:19.
ここで「悪事のすべてを」とありますから、権力者ということで、言葉を選んだり、遠まわしに言うのではなく、ヘロデヤとの不貞以外の罪も指摘していることから、どんな権力者も恐れない気骨のある人物であることがわかります。
その勇敢な性格によって、彼は投獄され、処刑されることになります。預言者としての務めを始める時点で、このような最後は覚悟していたでしょう。彼は人に喜ばれるのではなく、神に喜ばれる真実な人であります。
④ 謙遜な人
ヨハネはイエス様から偉大な人物と紹介されました(マタイ11:11)。そのような高い評価を受けている彼でしたが、自己紹介する時は、身を低くする謙遜な人でした。
「私などは、その方のくつのひもを解く値うちもありません。」ルカ3:16b。
「あの方は盛んになり私は衰えなければなりません。」ヨハネ3:30.
これだけ偉大な働きをしながらも、決して誇らず、ただ自分は神の道具にすぎないという気持ちをいつももっていました。彼は自分の功績を誇るのでもなく、また、人に認められるためでもなく、ただ、主のためだけに働くしもべとして生きていたのです。
⑤ 正確にみことばを語る人
彼の語る説教が、神のことばを正確に語っていたことが、後に人々にわかるようになります。
「多くの人々がイエスのところに来た。彼らは、「『ヨハネは何一つしるしを行なわなかったけれども、彼がこの方について話したことはみな真実であった。』と言った。 そして、その地方で多くの人々がイエスを信じた。 」ヨハネ10:41-42.
現在、アメリカの有名な説教者たちは世間から「マッサージ師」と皮肉られています。人を気持ちよくする言葉はよく知っていても、神のことばを語らなければ、人は救われません。エレミヤはきびしい預言をしたので、人々から嫌われました。しかし、捕囚の時代にダニエルはその預言の成就に驚愕して悔い改めました。(ダニエル9:29)
ヨハネは人を惹きつけるしるしはいっさい行いませんでした。その代わりきびしい説教をして、人々は耳が痛かったのです。しかし、後にイエス様を知るようになって、人々はヨハネの真実に気づいたのです。未熟な人に好かれようとするのはやめましょう。その人が怒ったり、傷ついたりしても真実を語るべきです。その人が成長した時に、理解してもらえるようになるのがいいのです。
3.ヨハネの働きとその役割
① 福音受容の準備の役割
「そのころ、バプテスマのヨハネが現われ、ユダヤの荒野で教えを宣べて、言った。「悔い改めなさい。天の御国が近づいたから。」この人は預言者イザヤによって、「荒野で叫ぶ者の声がする。『主の道を用意し、主の通られる道をまっすぐにせよ。』」と言われたその人である。」マタイ3:1-3.
このみことばからヨハネの働きは、「荒野の声」と呼ばれる宣教の働きであり、人々を悔い改めに導く、心を耕せて、メシアを迎える準備をする働きだと言えます。イエス様を信じるには、罪の自覚が不可欠です。自分が罪人で滅びに向かう者であることを知らずして、メシアを迎えることはできません。ヨハネはその厳しい説教によって、人々の心を揺さぶり、このままでは決して良くないこと、滅びが待ち受けていることを警告しました。
山上の説教の「幸いな人」でイエス様が語るように、罪を自覚して「心の貧しい者」となり、それゆえ「悲しむ者」となって、柔和、義に飢え渇く者へと変えられて行きます。ヨハネは人々のでこぼこ道のような頑なな心を砕いて、整地して、まっすぐにしました。ヨハネの父ザカリヤは彼について預言しました。
「主の御前に先立って行き、その道を備え、神の民に、罪の赦しによる救いの知識を与えるためである。」ルカ1:77。
② 具体的な生活の指導
ヨハネの説教は観念的ではなく、非常に具体的です。
悔い改めることに対してどうすればいいのか?と聞いた人に、「下着を二枚持っている者は、一つも持たない者に分けなさい。食べ物を持っている者も、そうしなさい。」ローマ兵の人には、「だれからも、力ずくで金をゆすったり、無実の者を責めたりしてはいけません。自分の給料で満足しなさい。」取税人には、「決められたもの以上には、何も取り立ててはいけません。」ルカ3:11-14.このように、具体的に悔い改めの実としての実践を教え、人々の心を整えて行きました。
③ バプテスマを授ける
「自分の罪を告白して、ヨルダン川で彼からバプテスマを受けた。」ルカ3:6.
口語訳では「ヨハネの名によるバプテスマ」となっていて、それはヨハネの権威の下に授けたと言うことです。ヨハネは神の権威に服していたわけですから、それは神の下でなされた悔い改めのしるしとしてのバプテスマです。その証拠にイエス様も、ヨハネからバプテスマを受けました(マタイ3:15)。使徒の働きでは、アジア地方のいたる所にヨハネのバプテスマを受けた人が大勢います。アポロのその中の一人でした。それだけ、ヨハネの影響力が広がっていたことがわかります。しかし、これはあくまでも救いに至るものではなく、イエス様を信じて受けるバプテスマこそ、完成と言えます。
「この人は、主の道の教えを受け、霊に燃えて、イエスのことを正確に語り、また教えていたが、ただヨハネのバプテスマしか知らなかった。」使徒18:25.
終わりに:特別な使命をもったヨハネは幼い頃から、世の楽しみと思われるものを甘受することはなかったことでしょう。いつも、厳しい説教によって、人を追い込み、人の心と対決をさせられました。その結果、投獄され殉教しました。イエス様の栄えとともに、自らはボロ雑巾のように捨てられるような最後です。そのヨハネをイエス様は牢獄に見舞うこともせず、無視しているかのようです。そのことで、ヨハネも少し弱きになりました(マタイ11:3)。イエス様がそのような態度を取るということは、それだけ大きな信頼をヨハネに寄せているということです。「しもべが言いつけられたことをしたからといって、そのしもべに感謝するでしょうか。」ルカ17:9.
イエス様は神であり、私たちは絶対的に服従して、徹底的に仕えるしもべなのです。この世では何の報いもないヨハネでした。ヨハネは主に仕えることが自分の務めであると自覚して、ただ、主に仕えたのです。その結果、殉教して消えて行きました。私たちがしもべの立場を忘れる時、自分の幸せを求めて、不満が出ます。ヨハネのように、ただ、主に仕えることを使命として生きましょう。天の報いを希望として、困難も乗り越えていくのです。
黙想と適用:
1.人に喜ばれるより、真実を語る者になっているでしょうか。
2.そのために正確にみことばを語っているでしょうか。
3.悔い改めは具体的な実践です。どんな実を結んでいるでしょうか。
4.しもべとしての立場を自覚して生きているでしょうか。